Curve:プールの効率性を高めるための Aパラメータ選択手法

Ledefiリサーチ事業部
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目次

1.はじめに
2.A パラメータの役割
 2.(1) Curve AMM と A パラメータ
 2.(2) A パラメータ変更による挙動
3.Curvesim を用いたシミュレーション
 3.(1) 出来高制約裁定取引
 3.(2) 評価指標
 3.(3) 提案事例
4.おわりに

1.はじめに

近年DeFiへの注目が高まる背景の1つとして、AMMの機能の進歩により、DEXにおいて高い効率性・流動性・安全性・透明性を兼ね揃えた取引が実現されていることが挙げられる。このうち安全性・透明性はブロックチェーン技術に担保される一方で、効率性・流動性はAMMの価格決定機構により担保され、詳細な需要に適合すべく様々な種類の機構が提案されてきた。

 例えばBancor, Uniswapなど最初期のAMMでは、プールのトークン残高の積が一定となるように価格を決定するConstant-Product Market Maker (CPMM)方式が採用された。CPMMはプール残高の少ないトークンの価格を高く調整することで常に流動性の供給を可能とする。しかしながら、その価格変化により生じるスリッページの影響は大きく、その価格インパクトを抑えるためには多量の残高を必要とすることから、まともに機能させようにも資本効率の悪さに悩まされることとなる。   

 逆に、価格インパクトを一切無くす極端な状況を実現するのが、プールのトークン残高の和を一定とするConstant-Sum Market Maker (CSMM)方式である。しかしプール内で価格を常に一定に保とうとすると、例えば外部の市場との価格の乖離が生じたトークンに対して残高が無くなるまで裁定を働かせられるため、この機構単一で実装されるAMMはほとんど存在しないだろう。

 このようなトークン残高に対する何らかの演算を一定に保つ方式は初期のAMMの実装に多く見られ、それぞれの利点・欠点が議論されてきた。そしてより高い資本効率や流動性を実現する手段としてそれらをハイブリッドに組み合わせる方式が考えられ、それぞれの方式の利点を享受し、欠点を補う試みが近年のAMMで見られる。

 例えばCurveはCPMMとCSMMを組み合わせたAMMであり、一定の取引範囲内にてCSMMのように価格インパクトを低下させ、また残高が不均衡になりその範囲から逸脱するにつれて動的にCPMMのように振る舞うよう調整して任意の範囲への流動性の供給を担保する。CPMMに対するCSMMの混合比率を調節するパラメータは”Amplification coefficient”もしくはAパラメータと呼ばれ、プール残高の規模や出来高等状況を適切に勘案してAパラメータを調整することで、効率的かつ安定的なプールの運営を可能とする。

 このようなAMM技術の成功は、世界を取り巻く金融環境の進歩に寄与する可能性がある。例えば直近の事例として、BIS(国際決済銀行)が推進する「Project Mariana」では、Curve AMMの技術を採用して、トークン化されたホールセール中央銀行デジタル通貨(wCBDC)を利用したFX取引と決済の効率性・安全性・透明性を向上させる可能性を模索している旨を2023年6月末に報告した[1]。

 本レポートでは、Curve AMM技術の成功の中心的役割を担うAパラメータの値の違いが与える影響を整理し、プールを安定的に運営するためにどのような考え方に基づいて値が決められていくのかを解説する。2章ではCurveのAMMにおけるAパラメータの定義を復習し、この値の変更がAMM利用者にどのような利点・欠点をもたらすかを整理する。3章ではプールの状況を勘案した適切なパラメータの決定に用いられるCurvesimというパッケージによるシミュレーションの内容とその適用事例を紹介し、4章にて総括する。

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