NFTの歴史
目次
- はじめに
- NFT出現の時代
(1) 2012年 Colored Coins誕生
(2) 2014年 Counter Party誕生
(3) 2017年 Crypto Punks誕生 - 規格化の時代
(1) 2017年 Crypto Kitties誕生
(2) 2021年The Sandbox ASSETS誕生 - 発展の時代
(1) 2021年秋 取引量の急増
(2) 2022年 ユーティリティの拡大
(3) 顕著なNFT取引のまとめ
5 おわりに
1. はじめに
2021年以降、NFTは欧米の有名アーティストとのコラボ等により急速に普及した。NFTの中心義である”一つの一つのトークンにそれぞれ別のデータを格納する”というコンセプトは約10年前から議論がされていた。本稿では、NFTの歴史を大きく3つの時代に分けて振り返る。
- NFT出現の時代:2012年~2017年:ブロックチェーンの新しい活用手段を開発する中で、後に、NFTのコンセプトにつながるプロジェクトが誕生した時代
- 規格化の時代:2017年~2021年:NFTの標準コードが実装。多くのクリエイター・エンジニアによって多数のNFTが誕生する時代
- 発展の時代:2021年:世界的な大企業が参画や保有者特典の拡充によって、より多くの人にNFTが行きわたった時代
2. NFT出現の時代
この時代は、ブロックチェーンの新しい活用手段を開発する中で、後に、NFTのコンセプトにつながるプロジェクトが誕生した時代です。まだ”NFT”という言葉は生まれていませんでしたが、NFTのはじまり観点では、この時代に誕生した以下プロダクトを意図する事が多いです。
2.(1) 2012年 Colored Coins誕生
Colored Coins はBitcoinブロックチェーンのデータの余白領域に、「色」と紐づけた新たな資産情報を書き込むようにすることで、BTCが通貨以外の資産(金融資産や、コモディティ、固定資産 等)として利用されることに価値を見出した。当時、Bitcoinコインブロックチェーンは決済目的でのみ使用されていたが、Colored Coinsの誕生によりブロックチェーン上で通貨以外の資産を発行する可能性が大いに広がった。
2.(2) 2014年 Counter Party誕生
CounterPartyは、Bitcoinブロックチェーン上で独自のトークンを作成したり、そのトークンを売買する無人銀行を作れる機能のことである。CounterParty上では、トレーディングカードゲームやミーム(ネタ)トークンが取引された。CounterPartyの誕生によって、今日では一般的となっている”トークンを買う市場”と言う考え方がブロックチェーンの世界にも誕生した。
2.(3) 2017年 Crypto Punks誕生
Crypto Punksは2017年6月にMatt Hall と John Watkinsonによって作成された1万体からなるアートコレクションである。このコレクションは、頭、ヒゲ、メガネや、アクセサリー等のパーツをアルゴリズムでランダムかつ重複なく組み合わせて生成する”ジェネレーティブ”という手法で作成された。Crypto PunksはNFTアートの元祖とも言われ、NFTの二次流通市場でも取引されるため事実上はNFTであるが、リリース当初はNFT規格のコーディングではなく、独自プログラム(コントラクト)で作成された。Crypto Punks誕生の意義はブロックチェーン経由でデジタル資産の所有権を証明するための実験であった。この実験はNFTという言葉が誕生する前に誕生しており、このコレクションの誕生が後に起こるNFT市場の拡大に直接的に寄与している[1]。
3. 規格化の時代
この時代は、NFTのプログラム(コントラクト)が標準規格化された時代である。 この時代以後のエンジニアは、標準規格を参照して、適宜必要なプログラム(コントラクト)を追加するだけでNFTが発行できるようになった。一般的な規格としては、以下の2種類がある。
- ERC-721:発行したトークン一つ一つに通し番号をつけ、個々を区別する
- ERC-1155:それぞれの通し番号がいたトークンを複数枚発行することができる
ERC721とERC1155に技術的な優劣はなく、ユースケースに即した規格を選択する。 例えば、ERC721規格は一点物のNFTの作成により適する。他方、ERC1155規格はブロックチェーンゲームの作成において、トークンID1番は剣、ID2番は盾といったように一つのコントラクトで複数のアセットを展開することに適する。
3.(1) 2017年 Crypto Kitties誕生
CryptoKittiesは、NFTの標準規格であるERC721規格を実装した最初のNFTである。CryptoKittiesはゲームキャラにNFTを用いたブロックチェーンゲームであった。ゲームを開発したAxiom Zen社の子会社Dapper Labs社CTOのDete Shirleyらが2017年9月20日にEthereum GitHubに対して行ったゲームキャラ開発に用いた関数の”ERC721”としての規格化提案がNFT誕生の瞬間である。
3.(2) 2021年 The Sandbox ASSETS 誕生
ERC-1155の実装例として、”The Sandbox”というメタバースプラットフォーム上で販売されるゲーム内アイテムがある。このアイテム類は、”The Sandbox”の作成したERC-1155のプログラム(コントラクト)の配下にクリエイターがアイテムを追加していく手法で展開している。
4. 発展の時代
2021年の秋口から始まる第三の時代はNFTが多くの人に広まり、また、数多くのNFTに大きな価値が生まれた時代である。また、NFTを保有することにおける特典(ユーティリティ)も拡張した。
4.(1) 2021年秋 取引量の急増
NFTの規格自体は2017年から規格化されていたものの、当初は一部の熱狂的な層が触る程度の技術であった。しかし、2021年からはNFTの取引自体が大きく増加した。2021年以降の爆発的な取引量の増加には以下の背景が考えられる。
- マスへの訴求力が向上:ラッパーのSnoop Doggやサッカー選手のネイマールを始め、多くのインフルエンサーがNFTへの参入を示した。結果、彼らを社会文化的な模範と見なすファンらの多くがNFTに参入する機運となった
- 大企業の参入:2021年以降にNFTに参入した企業としては、NIKE、adidas、GUCCI、TIME、UbiSoft、などの企業があがる。彼らの一部はメタバース文脈とも絡め、NFTを中心としたXR事業を推進している
- 暗号資産の強気相場:ボラティリティ(価格変動幅)の大きい暗号資産では、定期的に市場全体の急騰・反落が発生する。2021年はNFTの代表的な決済通貨であるETHの始値が736ドル、終値は3,676ドルと4.99倍になっており暗号資産決済に対する市場参加者の財布の紐が緩んだことも考えられよう
4.(2) 2022年 ユーティリティの拡大
2021年の取引高急増や投機的なNFTが話題になり、NFTの認知がマス層にも進んだ結果、2022年以降はより多くのプロジェクトがローンチしNFTエコシステムが飛躍的に拡大した。各NFTプロジェクトは差別化の為にNFTを保有することによる特典であるユーティリティの拡充に尽力した。この一連の流れを通しNFTプロジェクト自体の多様性が増し、今日に至る一大市場が形成された。ユーティリティの例としては以下があがる。
- セカンドコレクションの優先購入権:世界有数のNFTプロジェクト”Bored Ape Yacht Club”がセカンドコレクションの”Mutant Ape Yacht Club”の購入権を”Bored Ape Yacht Club”に付与。”Mutant Ape Yacht Club”も2023年の執筆時点で300万円の価値をつけている
- フィジカル特典:2022年2月 ストリートブランド”KITH”がNFTプロジェクト”Invisible Friends”とコラボ。NFTとなっている”KITH”の服が後日ドロップされる
- 会員権要素:2022年4月 NFTデータベース”Trait Sniper”が永久会員権NFTをリリース。このNFTを保有している限り、”Trait Sniper”の全ての権利に優先的にアクセスできる
4.(3) 顕著なNFT取引のまとめ
2021年以降の顕著な販売記録としては以下の事例がある。
- 2021年3月:Everydays - The First 5000 Daysが75億円で落札 [2]
- 2021年9月:Bored Ape Yacht Clubが3.2億で落札 [3]
- 2022年2月:CryptoPunksが27億円で落札 [4]
- 2022年2月:CLOCKが61億円で落札 [5]
- 2022年2月 UkraineDAOがロシアによる侵攻被害者の支援を目的としたNFTの販売で8億円弱を調達 [6]
- 2022年10月 国内NFTプロジェクトの”CryptoNinja Partners”が累計取引額5,000ETH (当時価格で約9.5億円)を突破 [7]
5. おわりに
NFTの歴史は2012年のColored Coinsまで遡り、Crypto Punksによって2017年に実施されたデジタルデータの保有に関する実験を皮切りに一つのブームを生み出した。そのブームは2021年にインフルエンサーの参画やETH相場の強まりを受けて大きな取引を記録し、ブロックチェーン産業の一角を担うようになった。NFT市場は2022年後半から続く暗号資産市場全体の弱まりに呼応するように縮小している。現状の打破には直近3年間の取引で大きな収益を上げたプロジェクトを中心にユーティリティやユーザ体験を見直し、市場を再度活性化させることが不可欠であろう。
参考文献
[1]:CryptoPunks V1. https://v1punks.io/ (Accessed 2022-12-01).
[2]:美術手帳. “75億円のNFT作品落札者は世界最大のNFTファンド創設者・Metakovan”. 美術手帳ホームページ. 2021-03-14. https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/23735 (参照 2022-12-01).
[3]:cryptuschrist. “Top Sales All Time”. Dune. https://dune.com/queries/888440/1552212?NFT+Contract_t6c1ea=0xBC4CA0EdA7647A8aB7C2061c2E118A18a936f13D (Accessed 2022-12-01).
[4]:CryptoPunks. “cryptopunks/details/5822”. https://cryptopunks.app/cryptopunks/details/5822 (Accessed 2022-12-01).
[5]:Censored. “Clock”. https://censored.art/clock (Accessed 2022-12-01).
[6]:Langston Thomas. “UkraineDAO Raises More Than $7M in Crypto to Aid Ukraine”. NFT now. 2022-03-02. https://nftnow.com/news/ukrainedao-raises-7m/ (Accessed 2022-12-01).
[7]:株式会社バケット. “流通額5,000ETH(約9.5億円)突破!NFTプロジェクト「CryptoNinja Partners」が「日本円・請求書払い」に対応する新サービスを開始”. PR Times. 2022-10-22. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000012092.html (Accessed 2022-12-01).