NFTの将来性

Ledefiリサーチ事業部
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目次

  1. はじめに
  2. 技術的視点
     (1) インターオペラビリティ(相互運用性)実現に向けた取り組み
     (2) AR技術・VR技術/AI技術との連携
  3. ビジネス的視点
     (1) コミュニティの増加
     (2) クリエイターエコノミーの形成
  4. おわりに

1. はじめに

NFTはデジタルデータの真贋性を簡単に証明する技術として期待感が高まっており、大手企業やIPも参入してNFTサービスをリリースし始めている[1]。ただ一方で、2017年にNFTのコーディングプログラム(コントラクト)が規格化されてからまだ6年と年月が浅く、技術・ユースケースともに発展途上という感覚もあろう。そこで本レポートでは、NFTの将来性推察の参考になる動向を、技術観点とビジネス観点に分けて整理していく。

2. 技術的視点

まずは技術観点において、NFT(含:ブロックチェーン)の動向として (a)インターオペラビリティ(相互運用性)実現に向けた取り組みと、NFT周辺技術の動向として(b) AR・VR技術/AI技術との連携を紹介していく。

2.(1) インターオペラビリティ(相互運用性)実現に向けた取り組み

インターオペラビリティとは日本語では”相互運用性”と訳される。『NFTの仕組み』のレポートで概説した様に、NFTのコーディング基盤となるプログラムは公開ライブラリから誰でも閲覧できる。ライブラリを参照すれば、開発者は何もない状態からコーディングをする必要がなく、追加機能も先行する様々な関数群の中から取捨選択をして採用するため、全体的な開発工数が小さくなりやすい。このことは乱立する数多くのNFTサービス間でもコーディングの観点からは相互運用が可能であることを示唆する。例えばNFTコーディング基盤のERC721規格を基に開発されたNFTの内、画素数などの条件を満たせば、その出自を問わずメタバースのアバターとして受け入れ可能な包括的サービスなどが目下進行している。

NFTの将来性にとってインターオペーラビリティが重要な理由は、2021年以降個々のプロジェクトやメタバースが乱立しているためである。現状は土地NFTやバーチャルアバターNFTを保有していても該当プロジェクトのメタバース内でしか利用できない場合が多い。その結果、NFTの保有者人口が増加してもプロジェクトの活発度を測る指標の一つである日次アクティブユーザ数は伸び悩み、これを起点にそのプロジェクト自体が下火傾向となる懸念がある。前述の通りNFT技術は相互運用を通したユーザ体験の向上を実現しやすい技術のため、この観点での取り組みはNFT産業の包括的なてこ入れとして期待されている。

一般的にWeb3関連の文脈では、同一ブロックチェーン上でのインターオペラビリティと、異なるブロックチェーン間のインターオペラビリティという2通りの解釈がある。概要とNFT文脈での取り組みは以下の通りである。

2.(1).①同一ブロックチェーン上でのインターオペラビリティ

  • 定義:同一ブロックチェーン上のアプリケーション同士を相互に運用可能である事
  • 実現されるとできる事:同一ブロックチェーン上で、かつNFTの標準規格に準拠したアプリであれば、どのアプリでもNFTが利用できる
  • 達成度:実現済
  • 主な具体例:WorldWideWebb(ブロックチェーンゲーム) 2Dピクセルアートの相互運用ができるブロックチェーンゲームである。 NFTマーケットプレイス「Opensea」で保有するピクセルアートをアバターにしたり、 ペットとしてゲーム上に持ち込むことが可能である。
図1.WorldWideWebb(ブロックチェーンゲーム) 出所:WorldWideWebbホームページより

2.(1).②異なるブロックチェーン間のインターオペラビリティ

  • 定義:無数のブロックチェーン同士を相互に運用可能とする事
  • 実現されるとできる事:異なるブロックチェーン上で開発されたNFTを別のブロックチェーンに転送したり、複数ブロックチェーン間でデジタル資産の連携ができるようになる。
  • 達成度:取り組み中 (例:Polkadot、Cosmos)

2.(2) AR技術・VR技術/AI技術との連携

2.(2).① AR技術・VR技術技術との連携

現実環境を機械で編集する「AR(Augmented Reality)」や現実にない世界をCGによって仮想空間上に作り出す「VR(Virtual Reality)」はNFTと相性が良いとされている。ARを通して一点もののデジタルファッションを保有したり、VRを通して自身の保有するバーチャルワールド上の土地の所有者証明などに応用できるからだ。デジタルアートの様な物理的に目の前には存在しないコンテンツのデータ保存に、台帳管理とメタデータを切り分けて保存するNFT技術が応用できることは『NFTの仕組み』のレポートで概説したとおりである。以下に、既ローンチされているVR・AR関連のプロジェクトを紹介する。

  • Somnium Space VR
    • ユーザが自身のメタバースの土地を買い、その上で自由に空間建築を行えるオープンソースVRプラットフォーム。UI上では、自身が作成した3DデータをSomnium上にアップロードするだけでデジタルアイテムをNFT化できるため1^1、非エンジニアでもアイテムの作成から販売までを自力で実行できる。
    • NFTの持つ不可逆性という性質から、作成したデジタルアイテムは半永久的にブロックチェーン上に残り続ける2^2。従って、NFTの作成者は自身の作成したデジタルアートが運営会社都合で消滅することを心配する必要がない。また、同エコシステムでは、暗号資産が支払い通貨になることも多く、NFT形式での物販はスマートコントラクト3^3を介して自動かつ高速な取引が実行できる観点からもNFTとバーチャルワールドは親和性が強い。こうした背景から、エコシステムの拡大がより多くのNFT取引を生むことに繋がり、メタバース市場が成長すればNFT市場も成長しやすくなると言える。メタバースが持つ目下の課題はアクティブユーザ数の伸び悩みであり、今後より多くの利用者を巻き込んでグロース出来るかが注目されている。
図2.Somnium Space VR 出所:Somnium Space VR ホームページより
  • METADRIP
    • 国内のweb3クリエイティブ集団「1BLOCK」が作成したARアプリケーション。ARでデジタルファッションを試着したり、キャラクターをAR空間上に出現させることができる。現在はβ版で、ARを試す機能しかないものの、今後はウォレットを接続して、自分の保有するデジタルファッションNFTを試着したり、アプリ上でデジタルファッションを購入したりできるという[2]。彼らの作品は、2023年1月で既に6ETHの価値をつけている。こちらは日本円相当で約120万円の価値である。

2.(2).② AI技術との連携

近年AI技術の発展は目覚ましいものがあり、アート作成、楽曲作成、動画作成等のクリエイティブな分野において多くの活用事例が生まれてきている。またNFTも同様にアート等のクリエイティブな分野と相性が良いためNFT×AIの分野が注目されている。

  • AI × アート × NFT:Artsy Monkeは世界で最も人気が高い事で有名なNFTコレクションの一つであるBored Ape Yacht Clubを基にGoogle AIを活用して機械的にNFT画像を生成するジェネレーティブ・アート プロジェクトである。
  • AI × Vtuber × NFT:VTuber事業を3年以上企画運営している株式会社Pictoriaが自社のAIアセットを活用したNFTプロジェクト「Nen Studio」を2022年にローンチした[2]。元となるAIはVtuberであり、リスナーとの対話を通じて深層学習を進めている。

1^1 ゲームアイテムのNFTはERC-1155規格で開発されることが多いため、厳密にはNFT(ERC-721規格)とは異なる。1枚1枚のトークンをユニークなものと見なすERC721規格に比し、ERC-1155規格では一つのコントラクト(トークンの仕様を定義する関数群)から複数のトークンを生み出すことができる。例えば、ゲームアイテムをERC-1155で実装する場合、一つのコントラクトから剣NFTと盾NFTと服NFTを同時に生成したり、一回のガス代で複数のトークンを送付できたりする。
2^2 一般的なオンラインオープンワールドゲームでは、ユーザの減少などにより開発会社がゲームサーバをクローズするケースもあるが、不可逆的な仕組みであるブロックチェーンではいかなる法人・個人も自身の都合でゲーム内データを消去・改ざんできない。
3^3 NFTマーケットプレース(2次販売市場)やNFT自体の資産移動を自動化する関数群。各メタバースエコシステムでは、ブロックチェーンを通し開発された独自の暗号資産がある。また、メタバースにはMataMaskなどの暗号資産ウォレットを通して接続することが一般的である。こうした背景から、ログインしたウォレット内にそのメタバース内で用いる基軸通貨(決済暗号資産)があれば、ウォレットから基軸通貨を送り、NFTを送り返してもらう仕組みが成り立つ。この際、クレジットカードの情報やログイン時の個人情報の提出を求めないことが多いためユーザサイドの工数を削減できる。

3. ビジネス的視点

上記NFTの技術的動向や、先行する事業の高いパフォーマンスによって、今後はNFTを活用したビジネスが多く出てくる事が想定される。本章では、ビジネス観点におけるNFTの将来性推察に参考となる動向を簡単に説明する。

3.(1) コミュニティの増加

3.(1).① ユーザーの増加

NFTに触れる人の数は年々増加している。顕著な統計としては、以下があげられる。

  • 米国
    • security.orgのレポートによると2022年時点では全米国民の4%がNFTの保有・売却経験を有しており、これは2021年の2倍にあたる。また、NFTについて見聞きしたことがない人の割合は2021年の66%に比して7%と大きく減少した。同レポートでは、こうした広まりを受けて2022年末の米国内NFTユーザ数は前年の約460万人に比して約930万人へ拡大すると予測している。[4]
  • アジア
    • 2022年度は前年度比で、全人口におけるNFTを保有したことがある割合は前年に比して54.8%[5]。特に、フィリピンでは全人口の32%、タイでは27%、そしてマレーシアでは24%の人々がNFTを保有している[6]。先進国中心にユーザが広がった2021年に比し、直近は人口の多いアジア諸国にもユーザ数が増加している。

NFTにより多くの人が触れると、それに応じてNFT市場の流動性が高まったり、ユニークなプロダクトが誕生したりする。

3.(1).② 大手企業・研究機関の参入

2022年までに、大手の企業・研究機関がweb3領域に参入してきている。大きな組織が参入してくることで、業界全体の開発速度が飛躍的に早まったり、多くの知的財産権を保有する団体が参入する事でNFTの大衆化も加速される。代表的な組織には以下があげられる。

  • コーネル大学
    • 学内の研究を基に新興ブロックチェーン「Avalanche」を構築する礎を築いたことで知られている。同学コンピュータサイエンス分野の准教授であるEmin Gün Sirer氏は「Avalanche」上の分散型アプリケーションの立ち上げを支援する「Ava Labs」のCEOを務めている。「Avalanche」は他のブロックチェーンよりも安いガス代(チェーンの利用手数料)を実現し、かつ処理速度も速い。NFTのコード(コントラクト)は他のコントラクトに比してガス代が高くなるため、同学が進めるようなガス代の安いブロックチェーンでの展開が待たれている。「Avalanche」では、2022年に世界有数のNFT市場であるOpenseaに対応した。「Avalanche」の様な新興チェーンはNFTエコシステムの拡充を目下開発中であることが多く、開発を通しガス代問題などEthereumが抱える問題を解決することでNFT市場全体の活性化の一助となる可能性がある。
  • NIKE
    • 2021年の12月に3DデジタルNFTを以前から手掛けているクリエイティブ集団「RTFKT」を買収し、共同でNFTの制作を開始した。そうして「RTFKT x Nike Dunk Genesis CRYPTOKICKS」を作り出し、デジタルファッション業界とNFTの架け橋的な役割を担っている。なお、ブロックチェーンアナリストのWeston氏(2022)によると、NIKEはRTFKTの買収からわずか一年足らずで約1億9千万ドルほどの収益を上げており、NFTの総取引額は15億ドルに上るとされている[7]。
図3.RTFKT x Nike Dunk Genesis CRYPTOKICKS 出所:Openseaより

3.(2) クリエイターエコノミーの形成

NFTの発行を通じてアーティストの個人経済圏が拡大することもNFTの大きな魅力である。アーティストの個人経済圏とは、アーティストと市場がコントラクトを通して直接連携できることによって実現した経済圏である。これまでの物販がレーベルや販売企業が起点となっていたことに比し、アーティストにより多くの利益を残したり、ファンとアーティストの距離が近くなるなどの利点がある。旧来アーティストが行ってきた販売手法とNFTの販売手法の違いを表にまとめると以下の様になる。

表1.旧来エコノミーとNFTクリエイターエコノミーの差異 出所:Next Finance Tech作成

上表から分かるように、NFTの手法はアーティスト起点で進行する。その結果、NFTでは、販売・制作・ロイヤリティといった多様な観点から以下のような事例が誕生している。

  • せきぐちあいみ:日本人VRアーティスト。Googleが開発しオープンソース化したVR用ペイントソフト「Tilt Brush」で作成した作品「Alternate dimension 幻想絢爛[8]」が1,300万円で落札。制作環境から販売環境までの全ての工程がオープンソースであったため、レーベルや事務所に頼らない新しいの物販手法の理想像と言える。
  • DEATH ROW NFT: 1991年に設立されたヒップホップの伝説的レコードレーベル「DEATH ROW Records」の運営する音楽NFT[9]。2022年からSnoop Doggが経営を担当し、その過程でNFT音楽をリリース。ユーザは保有する音楽の商的権利を持ち、「DEATH ROW Records」は二次流通で楽曲が買われる度に10%の還元収入を半永久的に得る。

加えて、NFTでは個々のトークンデータを識別可能なユニークデータと位置付けるため、ファンからのコミットメントを可視化しやすいという特徴もある。ここでいうコミットメントとは、各ウォレットからの累計購入額・保有対数・二次流通市場での転売回数・転売時の利益率などの記録である。これらの情報は個々のトークンに紐づきオンチェーン情報としてオープンに公開される。アーティスト側ではこうしたデータを通し、最も自分のアートを買った人や自分のアートを転売する気が全くない人を把握できる。従来の物販では、例えばアイドルのシングルCDに次シングルの主役を決める投票権が付随しても、最も多く購入したファンまではわからなかった(ファンのコミットメントが可視化されない)が、NFTではこうした個人のアクティビティの把握を通してファンへの最適な還元が可能となる。例えば、大口保有者限定の特典をNFTに伏す際は、○○枚以上の購入を実現したウォレットをオンチェーンデータから検出し、それらに対して限定特典を配る関数をコントラクトに盛り込むことなどである。

こうした取り組みを見ていた大手の企業も徐々にNFTへの参入を目指す実証実験を開始した。例えば、広告大手の電通は、NFTを活用した新たな「ファンづくり・ロイヤルティ形成」を模索・創造する実証実験「絵師コレクション」の開始を2023年1月に発表した[10]。 この実験では、あるテーマを基にアーティスト(絵師)とファンが完全新作イラストの描きおろしを通し価値を共創し、その証としてNFTを配分するとしている。

4. おわりに

NFTはコントラクトを中心に自動化されたアーティストの個人経済圏を形作る。今後もより多くのユーザの参入が見込まれると同時に、開発やVR・ARを始めとする他の新しい技術との連携が進み、より大きなフィールドに拡大していくことが予測されている。

参照文献

[1] : CryptoGames株式会社. “日本初!購買と紐づいて成長するNFTを「おまけ」とした、カルビーポテトチップス「NFTチップスキャンペーン」共同実施”. PR Times. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000041264.html (参照 2022-12-01).
[2] : 1SEC. “日本初、NFTデジタルファッションアイテムをARで試着可能にする「METADRIP」を発表。”. PR Times. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.00・044158.html (参照 2022-12-01).
[3] : NEN Studio. “AI NFT project NEN Launched”. medium. 2022-04-17. https://medium.com/@pjnen/ai-nft-project-nen-launched-2450e44e41a0 (Accessed 2022-12-01).
[4] : Security.org. “2022 NFT Awareness and Adoption Report”. https://www.security.org/digital-security/nft-market-analysis/ (Accessed 2023-03-25).
[5] : TechInsight360. “Asia Pacific NFT Market Intelligence and Future Growth Dynamics Databook - 50+ KPIs on NFT Investments by Key Assets, Currency, Sales Channels - Q2 2022”. Research and Markets. ID: 5636046 https://www.researchandmarkets.com/reports/5636046/asia-pacific-nft-market-intelligence-and-future?utm_code=9d5dks&utm_exec=chdo54prd (Accessed 2022-12-01).
[6] : Laycock Richard. “NFT statistics”. finder. 2022-10-03. https://www.finder.com/nft-statistics (Accessed 2022-12-01).
[7] : Weston Georgia. “Top 10 Brands Investing In NFT”. 101 Blockchain, 2022-09-15. https://101blockchains.com/brands-investing-in-nft/ (Accessed 2022-12-01).
[8] : Aimi Sekiguchi “assets/ethereum/0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5e/16492278848544592155694269768232182247127444326603911797357187341687019536385”. Opensea. https://opensea.io/assets/ethereum/0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5e/16492278848544592155694269768232182247127444326603911797357187341687019536385 (Accessed 2022-12-01).
[9] : DEATHROWNFT. Opensea. https://opensea.io/DEATHROWNFT/created (Accessed 2022-12-01).
[10] : 電通. “電通グループ、Web3時代に向けエンタメコンテンツ領域におけるNFTの実証実験「絵師コレクション」を開始”. 電通グループホームページ. 2023-01-23. https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000907.html (参照 2023-01-25).