NFT概要

Ledefiリサーチ事業部
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目次

  1. はじめに
  2. NFTの定義
  3. NFTが持つ特徴
     (1) 保有者を証明できる
     (2) プログラマビリティに富む
  4. NFTのユースケース
     (1) デジタル資産
     (2) 公的書類
     (3) チケット
     (4) DeFi関連
  5. おわりに

1. はじめに

本レポートでは近年、大手企業が多く参入し始めているNFTの分野について、定義/ユースケースの紹介を通して解説する。

2. NFTの定義

NFTとはEthereumなどのブロックチェーン上で発行されるトークンの一種を指す呼称である1^1。トークンの中でも、唯一無二の価値を生み出せるトークンのことをNFT(Non-Fungible Token)という。他方、他のトークンと代替可能なトークンはファンジブルトークン(Fungible Token)といいう。NFTとファンジブルトークンの違いを下表で示す。

図1.NFTコントラクトの挙動 出典:Next Finance Tech作成
注記:NFT様に各トークンに個別のデータを紐付けるプログラムの企画の一種

前提としてNFTは1つ1つのトークンへ紐づけられる個々のデータに固有の価値がある。そのため、資産は代替不可能である。他方、ファンジブルトークンでは1つ1つのトークンにユニーク性が無く、同種類のトークンであれば価値は等しくなるため等価交換する事も可能である。例えると、Aさんが持っている1BTCはBさんの持つ1BTCと同じ価値を持つのでファンジブルトークンである。他方、Aさんが仮にピカソの絵を保有していた場合、本物のピカソの絵は世の中に一つしかないはずなので代替不可能なNFTとなる。

1^1 ブロックチェーンの文脈で言うトークンとは、資産や通貨、アクセス権に代表される特定目的の代用貨幣のことである

3. NFTが持つ特徴

次に、NFTが持つ主な特徴を2つ紹介していく。

3.(1) 保有者を証明できる

NFTの規格を実装したトークンは、ブロックチェーン技術に裏付けられており、保有者の証明が可能である。デジタルデータの保有証明をする意義は、世界最大のブロックチェーンであるイーサリアムを運営するEthereum.orgが以下の様に説明している。

ピカソの「ゲルニカ」の画像をグーグルで検索したからと言って、数百万ドルの美術史的作品の所有者とは言えるでしょうか?結局のところ、本物の所有には価値があり、その価値は市場により決められます。 コンテンツは、スクリーンショットを取られ、シェアされ、利用されればされるほど、その価値は高まります。本物を持っているということは、それだけで価値があるということです。[1]

3.(2) プログラマビリティに富む

ここで言うプログラマビリティとは、NFTを構成する関数群(コントラクト2^2)に様々な機能を追加できるという事だ。この特徴によって様々な機能を付加する事ができ、例えば、ERC721規格のコントラクト3^3に、ERC2981規格の別のコントラクトをアドオン4^4すると、そのNFTがで二次転売される度に、その約定価格の2.5%~10,0%をNFT発行者に還元することができる。少しプログラマビリティとは話が逸れるが、NFTの二次流通におけるインパクトはとても大きい。Bored Ape Yacht ClubというNFTプロジェクトを例に取ると、2023年の年初の累計取引ETHは約70万ETHのうち、二次取引の収益の2.5%(図2中央上部のCreator fee 2.5%という表記を参照いただきたい)がNFT制作者に還元されており、二次流通のみで約1.7万ETH程がクリエイターに還付されている。

図2.二次取引のイメージ 出所:OpenSeaより

纏めると、NFTのコントラクトは多種多様な機能(二次流通によるNFT製作者への還元割合)を追加できるように、プログラマビリティが高い設計になっている。

2^2 NFTは関数の集合体としてブロックチェーンにデータ保存される。NFTを構成する関数には、AさんからBさんへのNFT移動を自動化するtransfer関数やNFTの新規発行を行うmint関数などがあり、ウォレットからの提出されたメッセージをもとに最適な関数が呼び出されることで様々な取引オペレーションを自動化する。
3^3 NFTの基盤となる関数群をまとめた標準規格のこと。
4^4 ERC2981規格はNFT作成者(クリエイター)が指定した二次流通還付(ロイヤリティ)割合の情報をERC721規格に追記する。ERC2981規格の実装により、ロイヤリティの仕組みを実装しているNFT二次販売市場で成立した全ての売買に対し約定金額から一定の割合がクリエイターに還元される。

4. NFTのユースケース

ここまででNFTとは何かを説明してたが、本章では、どのようにNFTが実用化されているかユースケースをいくつか見ていく。

4.(1) デジタル資産

NFTが最も盛り上がっているのは、デジタル資産の領域である。デジタル資産には、先ほど紹介したBAYCの様なアート作品の他にも以下の様なユースケースがある。

  • 会員権:そのNFTを保有することで、限定的なコミュニティに入れたり、SaaSが使えたりする
  • トレーディングカード:そのNFTを保有することで、ブロックチェーンゲームを遊んだり、カード自体を販売して収益をあげることができる
  • メタバース不動産:そのNFTを保有していることがメタバース上で土地を持っている証明になる。メタバース上の土地では、所有者が自在に建物を立てたり、ゲームを開発したりすることができる
  • ブロックチェーンゲームのアセット:ゲーム内で作成したアセットデータをブロックチェーンと絡め、そのアセットを販売することで遊びながら稼ぐことができる

4.(2) 公的書類

大学の学位証明書の偽造は、10 億ドル規模の産業[2]と言われているが、NFT はその対策としても有効である。仮に偽の証明書を作成したとしても、プログラムの発行者が違ったり、そもそも指定した方法でブロックチェーンに載っていなければ真贋性を証明できないからである。日本でも、千葉工業大学にて学修歴証明書をNFTで発行する試みが2022年より開始されている。このNFTは、譲渡不可能なNFTSBT(Soulbound token)としてプログラムされている[3]。

4.(3) チケット

所有者がブロックチェーンに刻まれているNFTはライブチケットの様な不正な高額転売が行われがちな市場においても効力を発揮する。SBT(Soulbound token)をチケットNFTに実装すれば、NFTを他人のウォレットに送ることができない。ライブにはそのNFTが格納されているウォレットが入ったスマホを持っていくしかないので、転売目的での購入を抑止することができる。NFTチケットは欧米を中心に2017年ごろから徐々に広がりを見せており、日本でも2022年以降は発行数が大幅に増加している。

4.(4) DeFi関連

世界最大規模の分散型取引所Uniswapの最新バージョンであるUniswap V35^5では同取引所に資産の預け入れを行った際に付与されるLP Token6^6にNFT規格を採用している。これはUniswap V3が従来の分散型取引所では前例のないConcentrated liquidity ranges7^7を採用したためである。従来の取引所では、各利用者が流動性を提供する閾値を定めることができなかったため、それぞれのLP Tokenは区別されない。他方Uniswap V3では各利用者ごとに流動性提供の価格レンジが異なるため、個々のLP Tokenをユニークに識別する必要性があるのでNFT規格を採用した。こうした事例から、NFTはアートや投機的側面の他にも各種ブロックチェーンプロダクトの追加機能を実装する手段としても利用価値が高いことがわかる。

5^5 執筆時点での最新バージョン。Uniswapは2023年9月に主要な開発基盤であるEthereumブロックチェーンの大幅アップデートCancunの実装後にV4を展開する旨を発表している。
6^6 Liquidity Provider Token。このトークンをUniswapに返還することで利用者は預け入れた資産を引き出すことができる。
7^7 各利用者が任意の価格レンジや取引手数料に流動性提供を絞って行える仕組み。従来の分散型取引所では、各利用者が流動性を提供する閾値を定めることができなかった。Concentrated liquidity rangesの実装によりUniswapでは流動性提供者に不利な価格で取引が実行される機会を減少できる。

5. おわりに

本レポートでは、NFTの概要を定義からユースケースまで概説した。NFTというとアートをはじめとするデジタル資産関連での印象が先行しがちだが、公的証書、チケット、DeFiなど個々人が持つデジタルデータの唯一無二性や真贋性を証明する際にも幅広く活用されている。2023年6月時点ではデジタル資産関連のNFTの週次取引枚数は2022年6月に記録した約75万点に比し2023年6月には約5万件に減少しており[4]、今後はアート関連の垣根を超えた活用がどれほど拡大するかに注目が集まっている。

参考文献

[1] : イーサリアム財団. “非代替性トークン(NFT)”. https://ethereum.org/ja/nft/ (参照: 2023-06-30).
[2] : ACEI-Global. “Diploma Mills & Fake Degrees: A billion $$$ industry”. 2019-05-29. https://acei-global.blog/2019/05/24/diploma-mills-fake-degrees-a-billion-industry/ (Accessed: 2023-06-30 ).
[3] : 千葉工業大学 & 株式会社 PitPa. “国内初!千葉工業大学で学修歴証明書をNFTで発行”. 2022-08-22. https://www.it-chiba.ac.jp/media/pr20220818.pdf (参照: 2023-06-30).
[4] : Outumuro Lucas. “NFT Capitulation Continues -BAYC, Azuki and Blur face tumultuous market”. Medium. Published in IntoTheBlock. 2023-07-08. https://medium.com/intotheblock/nft-capitulation-continues-3ae96ff9e79b (Accessed: 2023-07-08 ).