DeFiの歴史
目次
- はじめに
- DeFiの特徴
- DeFiのメリット
(1) 取引コストが低い
(2) 特定の組織に依存しない運営
(3) 取引の透明性
(4) 競争力の高い金融サービス - DeFiのデメリット
(1) 利用者の自己責任
(2) システムの不具合による資産の毀損
(3) 法規制の未整備 - おわりに
1. はじめに
DeFi(Decentralized Finance)は、2016年から2017年にかけてブロックチェーン技術やスマートコントラクト等の発展と共に中央集権的な既存金融に対するアンチテーゼとして生まれた。その後、UniswapやCompoundとったDeFiプロジェクトの登場を経てDeFiエコシステムが成長したが、2020年以降、市場の成長に伴いハッキングや事故が増加してセキュリティ面やガバナンス面での懸念も顕在化してきた。
そのような背景も含めて、本レポートではDeFiがどのような歴史を辿って今日まで成長してきたかをまとめている(図1)。大きく時間軸としては4つに分けられ、それぞれ①DeFiのはじまり、②DeFiエコシステムの拡大、③ハッキング/事故の増加、④更なる成長へ、という時期毎のテーマで整理した。
2. 2016年~2017年:DeFiの始まり
DeFiの歴史は、2016年に生まれたDEX(分散型取引所)が始まりと言われている。[1]
(OasisDEXというサービスが最初に誕生したDEXと言われている。)
2016年頃からイーサリアム・ブロックチェーンを利用したアプリケーション開発が少しずつ盛んになる中で、独自の暗号資産を発行して資金調達を行うICO(Initial Coin Offering)の件数が増えていった。
それに伴い、ICOにより誕生した数多の暗号資産を売買する需要が生まれた。海外ではBinanceなどの従来型の取引所で売買することも可能であったが、そういった取引所の仲介を必要とせず、スマートコントラクトによりトークン売買機能を実現するアプリケーションの開発も進んだ。これがDEXであり、DeFiの始まりと言われている。
また、2017年には、Maker DAO社より、DAIというイーサリアムブロックチェーン上で利用できるステーブルコイン(米ドルとペッグ)に関するホワイトペーパーがリリースされ、DeFi上での取引の利便性が格段に向上した[2]。
3. 2018年~2019年:DeFiエコシステムの拡大
暗号資産の取引を行うDEXだけでなく、より複雑な機能を持つプロダクトの開発が進んだ。そういった動きを後押しするように、2018年頃には海外の開発者の呼びかけにより、DeFiのコミュニティ活動が始まった。このコミュニティ活動の影響は非常に大きく、現在ユーザーを集めている多くのDeFiプロジェクトが誕生するきっかけとなったのである。2018年から2019年にかけては、単なるDEXだけでなく以下のような多様なDeFiプロジェクトがローンチされた。
- 個人間でのローン提供を可能にするCompound [3]
- 暗号資産の一任運用を可能にするTokenSets [4]
- オプション取引が可能を可能にするOpyn [5]
など、既存金融で扱われている様々な機能がイーサリアムのスマートコントラクトを利用して仲介者の存在無しに実現された。
WBTC(イーサリアムブロックチェーン上で利用可能なビットコインの価格に連動するステーブルコイン)も2019年1月にローンチされ、イーサリアム上のアプリケーションの利便性向上に貢献している。また、現在最も取引量が多いDEXであるUniswapも2018年にローンチされている。
4. 2020年:成長に伴いハッキングや事故が増加
2020年に入ると、DeFiエコシステムも広がり資金が集まるようになっていった。それに伴い、DeFiに集まった資金を狙うハックや事故などが増加した。以下が主な出来事である。
- Fulcrumのフラッシュローンハック [6]
- MakerDAOの債務超過 [7]
「フラッシュローン」とはDeFi特有の機能で、即時返済を条件に暗号資産を無担保で借り入れることができる仕組みである。2020年2月にハッカーがフラッシュローンの技術を悪用し、DeFiレンディングプラットフォームのbZx上で大量の利益を上げた。
また3月に新型コロナウイルスの影響で暗号資産相場が下落した際、MakerDAO(暗号資産担保型ステーブルコイン”DAI”を発行しているDeFiプロジェクト)の担保精算が正常に機能しなかったことが原因で、大きな負債を背負い債務超過に陥るという出来事もあった。
また、他にもUniswapから2,500万ドルの暗号資産が盗まれるなど、DeFiプロジェクトに対するハッキング事件は存在し、成長の反動として課題が浮き彫りになった時期と言えるであろう。
5. 2021年~2022年:更なる成長へ
2021年以降も、ハッキングなどの課題は引き続き残るものの、DeFiプロジェクトに集まる資金は増加を続けた。(2021年末にはDeFiへの資金供給量が1,000億ドルを超えた。)
流れ込んでくる多額の資金をイーサリアムだけでは処理しきれなくなり、取引手数料(ガス代)が高騰した。その結果として、イーサリアム以外のブロックチェーンにも資金やユーザーが流れ始めた。この現象をマルチチェーン化といい、BSC、Avalanche、Solanaといったイーサリアムより処理性能が高く取引手数料が低いブロックチェーンが知名度を高めた。
6. おわりに
本レポートでは、DeFiの歴史についてまとめた。DeFiは7~8年前に生まれた比較的新しいものであり、まだ金融業界に完全に根付いている訳ではないと考える。今後数年から数十年単位で既存金融と融合し、発展していく事になると推察するが、そのためには様々なレイヤーでの技術革新や、プレイヤーの変化など、DeFiの世界は今後も発展を続けてくであろう。
参考文献
[1]:Summer.fi Blog. The Story of Oasis. https://blog.oasis.app/the-story-of-oasis/
[2]:Whitepaper. Maker. https://makerdao.com/ja/whitepaper/#概要
[3]:Robert Leshner, Geoffrey Hayes. Compound: The Money Market Protocol. June 2018https://compound.finance/documents/Compound.Whitepaper.v04.pdf
[4]:What is Set Protocol? Set Tokens and TokenSets. Gemini. https://www.gemini.com/cryptopedia/set-protocol-erc20-set-token-tokensets-asset-tokenization
[5]:Zubin Koticha. Convexity Protocol: Building a Generalized Liquid Options Protocol in DeFi, November 12, 2019, https://drive.google.com/file/d/1YsrGBUpZoPvFLtcwkEYkxNhogWCU772D/view
[6]:Around the Block 第3号:bZx攻撃の分析、DeFiの脆弱性、暗号資産デビットカードの状況. |Coinbase. https://www.coinbase.com/ja/learn/market-updates/around-the-block-issue-3
[7]:Mempool Manipulation Enabled Theft of $8M in MakerDAO Collateral on Black Thursday: Report. Nasdaq. https://www.nasdaq.com/articles/mempool-manipulation-enabled-theft-of-%248m-in-makerdao-collateral-on-black-thursday%3A-report