Velodrome: Solidlyの後継者となるve(3, 3)プロトコル

Ledefiリサーチ事業部
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目次

  1. はじめに
  2. Velodromeとは
     2.(1) Velodrome v1
     2.(2) Velodrome v2
  3. Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス
     3.(1) veトークノミクスとは
     3.(2) 3, 3トークノミクスとは
     3.(3) Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス
  4. 他プロトコルにおけるve(3, 3)との比較
     4.(1) 各プロトコルが解決しようとしたこと
     4.(2) 各プロトコルの定性面での比較
  5. おわりに

エグゼクティブサマリ

  • Velodromeとは、2024年5月時点においてOptimism上で動作する3番目に大きいTVLを誇るDEXである
  • Velodromeはve(3, 3)トークノミクスを導入しており、直近ではLP向けの機能(集中流動性の実装やRelay)を導入している
  • Velodrome以外にもve(3, 3)トークノミクスを導入しているプロトコルが存在する
  • ve(3, 3)トークノミクスを導入するプロトコルはLP向けの報酬を拡充、もしくはガバナンス権の付与の方法に工夫を凝らしている
  • ve(3, 3)トークノミクスを導入するプロトコルにはそれぞれコアユーザーが根付いており、VelodromeがTVLでは最も大きい

1. はじめに

Velodrome[1]とは、2024年5月時点においてOptimism上で3番目に高いTVLを誇るDEXである[2]。VelodromeのTVLはUniswapよりOptimism上で高く、注目が集まる。VelodromeはLPに様々な種類の流動性プールを提供しており、Curve.fiのステーブルスワップのプールやUniswapのような定積型(CPMM)のプールを提供している。本レポートでは、Velodromeの最大の特徴であるve(3, 3)トークノミクスについて解説を行う。ve(3, 3)はCurve.fiのveトークノミクスとOlympus DAOの3, 3トークノミクスを組み合わせたもので、プロトコルのユーティリティトークンの売圧を下げることを企図したプロトコルである。Velodrome以外にもve(3, 3)トークノミクスを導入しているプロトコルも存在しているので、本レポートでは他のプロトコルとの比較も行う。

キーワード:Velodrome、veトークノミクス、3,3トークノミクス、ve(3, 3)トークノミクス、Velodrome Slipstream、Velodrome Relay、Thena、Equalizer、Chronos

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2. Velodromeとは

本章では、Velodromeの概要について紹介をする。Velodromeは2022年5月にVelodrome v1として誕生したOptimism上で動作するDEXであり、2023年6月にv2に更新され、2024年1月にCoinbaseに買収された。Velodromeはv1から3章にて解説するve(3, 3)トークノミクスを導入しており、ユーティリティトークンである$VELOが売られる動機を抑制し、LPが流動性をプロトコルに安定的に提供する動機を高めたプロトコルだ。Velodromeはプロトコルに提供される流動性を高めることで、トレーダーが低いトレーディングコスト(スリッページ)でトレードができる環境を整えようとしている。この結果、図1.のように、LPとトレーダーの相乗効果、ガバナンストークンの保有者による投票でプロトコルが繫栄することを狙っている。

図1 Velodromeのフライホイール 出所:VelodromeよりNext Finance Tech作成

2.(1) Velodrome v1

本節では、Velodrome v1の概要について、ve(3, 3)トークノミクスの内容に深入りせずに紹介する。Velodrome v1は先述の通り、2022年5月にプロダクトがOptimism上でリリースされた。Velodrome v1がOptimism上で作られた理由は、Solidlyという別のプロジェクトの開発者であるAlexander Cutler氏によって作られたためだと考えられる。

Velodrome v1の流動性プール[3]は2種類存在し、プロトコルに参加するLPはステーブルプール(以下、「sAMM」)もしくはボラタイルプール(以下、「vAMM」)を選び、流動性を提供する。sAMMはボラティリティが低いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)とし、流動性に関する定数をk とすると、x3y+y3xkx^3 y+y^3 x ≥kに従う。そのため、トレーダーはsAMMを利用することで一度の取引における金額が大きくても、対象のコインの取引についてはスリッページを抑制できる仕組みとなっている。一方で、vAMMはボラティリティが高いトークンのために設計されているプールであり、トークンのペアを(x,y)とし、流動性に関する定数をk とすると、xykxy≥kに従う。

Velodrome v1におけるトレーディングフィーは両プールにおいてデフォルトで0.02%に設定されていたが、プールによっては1%まで調整されている。トレーディングフィーはVelodrome上でトレードの対象となった通貨で保存される。LPは各プールにたまったトレーディングフィーの半分をLP間で分け合い、残りの半分はve(3, 3)トークノミクス特有のプロトコルに存在するveトークンのホルダーに3章で詳述する条件で分配される。

Velodrome v1では、LPとトレーダー以外にVelodromeのガバナンストークンを保有する$veVELOホルダーが存在する。ガバナンストークンはveトークノミクスに特有の仕組みであるユーティリティトークンのプロトコルへのステーキングによって、入手することができる。ガバナンストークンの保有者は、週次で流動性プールに関する人気投票に参加することができ、投票したプールに対する自分の票の割合に応じたトレーディングフィーの残りを得ることができる。本節ではve(3, 3)トークノミクスについては深入りしないので、ガバナンストークンの保有者に関する説明はこれ以上とどめる。

2.(2) Velodrome v2

Velodrome v2は2023年6月に誕生し、Velodrome v1との違いはトレーディングフィーの柔軟化、集中流動性の導入、UIの改良、Velodrome Relay(3章詳述)が挙げられる。

Velodrome v2には集中流動性が導入された。プールタイプごとのティック幅は、sAMMについては価格の0.5%(ティックスペース50相当)、vAMMについては価格の2%(ティックスペース200相当)、相関の高いステーブルコインやリキッドコインを対象としたプールは価格の0.01%(ティックスペース1相当)、ボラティリティの高そうな新興コインについては20%(ティックスペース2,000相当)としている。集中流動性を導入しているプールについては、「CL1-wstETH/WETH」のように、「CLティックスペース幅-通貨名1/通貨名2」と、図2.の真ん中のプールのように表示される。

図2. 集中流動性を導入したプール 出所:Velodromeより

プールのスワップフィーはVelodrome v1と同様に、プールのタイプごとではなく、プール個別で設定される。そのため、コインのボラティリティに応じて都度プールの手数料をパートナープロトコルなどがVelodromeに依頼することもできる。このように、Velodromeはトレーディングフィーの柔軟化を重視しており、現在は動的にトレーディングフィーを調整するモジュールの開発に取り組んでいる。個人的に、トレーディングフィーの柔軟化はトレーダーを保護することよりも、LPをプロトコルに滞留させるために導入されたように感じる。なぜなら、図3.[4]のようにVelodromeはv2に移行して以降、プロトコルとしての出来高は減っているのかもしれない(図3.上)が、収受するトレーディングフィーは増えている(図3.下)からだ。

図3. Velodrome Financeにおけるトレーディングフィーと出来高の関係 出所:@0xkhmerlab作成のDuneダッシュボードより

Velodrome v2では集中流動性やRelayに加え、新たにVelodrome Slipstreamも導入された。Velodrome Slipstreamとは、ゲージの一種であり、導入された目的はボラティリティの低いプールに参加しているLPの資本効率を上げ、プロトコルへの流動性の供給量を増やすことである。LPはVelodrome Slipstreamを利用することで、流動性のリバランスを自ら調整せずにプロトコルに任せられる。ゲージ報酬は流動性を保つためにタイミングとしては定期的、かつアクティブティック(トレードがなされている価格近辺と判定されるティック)にのみ分配される。LPは提供する流動性を自由に調節できるが、Velodromeにおける流動性を増やすためにunstaked liquidity fee rake/tax(提供していない流動性に対するペナルティ)が導入されている。このペナルティはデフォルトで10%だが、状況に応じて0%から20%の間でVelodromeによって設定される。図3.上において、Velodrome SlipstreamのプールがVelodrome v2のトレードされる出来高の大半を占めており、LPからの流動性も多く集めている。

3. Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス

本章では、Velodromeが導入しているve(3, 3)トークノミクスについて解説する。ve(3, 3)トークノミクスはAndre Cronjeによって作られ、プロトコルがLPに支払う報酬であるネイティブトークンに売圧がかかりづらくなるトークノミクスである[5]。ve(3, 3)トークノミクスはVelodromeだけが取り入れているものではなく、BNB 上のThena、Fantom上のEqualizer、Arbitrum上のChronos等も導入をしている[6]。ve(3, 3)トークノミクスは、Curve.fiのveトークノミクスとOlympus DAOの3, 3トークノミクスの組み合わせなので、まずはこれらについて紹介する。

3.(1) veトークノミクスとは

ve(3, 3)のveとは”vote escrowed”の略称である。escrowとは預託という意味であり、米国での不動産取引が安全に進められるために発展した公的機関による取引監査制度や、広く物品の売買の代金決済等取引の安全性を確保するサービスを指す。veトークノミクスにおけるveは、ユーザーがユーティリティトークンをロックし、プロトコルへのガバナンスへの長期コミットを約束する代わりに投票権を得る、というエスクロー構造を指す[7]。veトークノミクスを導入しているプロトコルにはescrow accountが存在し、ユーザーはユーティリティトークンをescrow accountに保管する。そのため、実態としてveトークノミクスにおいて、ユーザーはユーティリティトークンをescrow accountを通してプロトコルに預託し、議決権やインセンティブを得ている。veトークノミクスを理解するうえで、下記の要素が重要となる。

表1. veトークノミクスの要素

veトークノミクスの最大の特徴は、ユーザーがガバナンスへのコミットを約束すると同時に、ユーティリティトークンがプロトコルにロックされるのでプロトコルのユーティリティトークンに売られづらくなる構造を持つことである。なぜなら、ロックされたユーティリティトークンは市場で取引されないからだ。veトークノミクスを導入しているプロトコルの参加者には、LP、トレーダーの他に提携しているプロトコルなどもある。veトークノミクスで成り立っているプロトコルのユーザーのうち、ユーティリティトークンをロックするユーザーは下記の流れを体験する。

  1. ユーティリティトークンの入手:ユーザーはユーティリティトークンをLPとしての参加や、Airdrop等によって入手(提携プロトコルやプロトコルの繫栄に重要とみなされる人物等)する。
  2. ユーティリティトークンのロック:ユーザーは、ユーティリティトークンをプロトコルにロックする。ユーザーはロックされたトークンを指定したロックの期間中、使用することができない。
  3. veトークンの発行:ユーザーがトークンをロックするとveToken(vote-escrowed token)がプロトコルから発行される。ユーザーが受け取るveTokenの量は、ユーティリティトークンをロックした量やロックアップ期間によって変化する。
  4. ガバナンス投票:veTokenは、プロトコルのガバナンス投票に参加するために使用される。ユーザーのveTokenの保有量が多いほど、ガバナンス投票における影響力が大きくなる。筆者が認識している範囲では、ガバナンス投票では一般的なプロトコルに関する改良案の可決・否決の投票の他、週次でプロトコル上に存在する流動性プールの人気投票が行われる。人気投票はプロトコル上に存在する優良なプールを決めるためのものであり、プールの流動性を保つうえで重要である。
  5. 報酬の付与:ユーザーは、ユーティリティトークンをロックすることで得られるインセンティブの付与(高いLP報酬やプロトコル収益の分配、人気投票の分配収益等)を受け取る。報酬はプロトコルのユーティリティトークンで付与される。
  6. ロック期間の終了:ロック期間が終了すると、ユーティリティトークンはユーザーに返却される。ユーザーはユーティリティトークンが返却されると再び自由にユーティリティトークンを使うことができるが、veTokenが失効する。

この1.~6.の流れをユーザーはveトークノミクスを導入するプロトコルでは体験することとなる。veトークノミクスにおいて、ユーザーがガバナンストークンを保有する量によってプロトコル内における影響力が異なる。Veトークノミクスを導入する代表的なプロトコルにCurve.fiがあり、Convex Financeとの登場により、Curve WarsというCurve.fiと提携しているプロトコルがveトークンの獲得に奔走する現象が起きた[8]。

3.(2) 3, 3トークノミクスとは

本節では、3,3トークノミクスを説明する前に、理解の補助のためにOlympus DAOについて説明する。Olympus DAOは既存金融の資本主義国家によくみられる中央銀行のような仕組みをユーティリティ兼ガバナンストークンであるOHMの価値を一定とするために、導入している。OHMは様々なトークン(DAI、FRAX、ETH、BTC等)によって価値が最低1DAIと裏付けられている。一点、注意すべき点はOHMがある通貨にペッグされていない点である。Olympus DAOはOHMの価値の貯蔵をプロトコルで管理することしており、他のDEXとは異なり、流動性プールの流動性はOlympus DAOが所有している。そのため、OHMはOlympus DAOが自由にミントもしくはバーンすることで価値が一定となるよう、管理されている。

Olympus DAOが導入している3,3トークノミクスは、プロトコルに参加するユーザーがトークンを売る、Bond(ユーザーからOlympus DAOが流動性を買い、OHMを割り引いて売る)、ステークするという行動を選択できる中で、ゲーム理論的にステークすることを促す概念[9]である。そのため、3,3トークノミクスが機能するプロトコルにおいてもユーティリティトークンには売圧がかかりづらい仕組みとなっている。3,3トークノミクスの名前の由来は、下記表のようにユーザーの行動によって生じる効用はお互いにとってステーキングされると最も高いことを表で表したことにある。

表2. 3,3トークノミクスの由来となる表 出所:Olympus DAOよりNext Finance Tech作成

表2.はユーザーが選択する行動によって起こされる、ユーザーとプロトコルの効用を示す利得表である。理論上、ユーザーはステーキングをすることで高いAPYを実現できた(一時1,000%を超える)ので、OHMをディスカウントで買うよりも効用が高いとされていた。また、Olympus DAOにとってもユーザーがステーキングをすることでOHMの価値を保つことができ、ボンディングで流動性を確保する代わりにOHMの価値が下がるリスクを被るよりも効用が高い、とされている。ユーザーがOHMを売った場合、OHMとOlympus DAOの価値が下がるのでユーザーとプロトコルにとって効用が低くなる。このように、理論的にユーザーはお互いがステーキングを選択することが効用の最大化につながるので推奨され、プロトコルにとっても効用を最大化できる。しかし、2022年1月に82,526のOHMを大量に売られてしまい、表2.のようにユーザーがステーキングを選択しなくなってからトークン並びにプロジェクトの価値が大きく毀損した[10]。

3.(3) Velodromeにおけるve(3, 3)トークノミクス

ve(3, 3)トークノミクスは先述したCurve.fiに代表されるveトークノミクスとOlympus DAOに代表される3, 3トークノミクスを組み合わせた、Solidlyの開発者であるAndre Cronjeによって作られた。VelodromeはSolidlyのプロジェクトをフォークし、誕生したプロトコルである。VelodromeのSolidlyからの改良点は週次排出されていた報酬(以下、「エミッション報酬」)の量の削減によるトークンのインフレーションの防止、プールやプロトコルのホワイトリスト化、トレーダーからプロトコルが徴収するスワップフィーの料率上昇、LPブーストとネガティブヴォーティングの廃止、などである。本節では、Velodromeの仕組みとve(3, 3)に焦点をあてる。

Velodromeが従うve(3, 3)トークノミクスの名前の由来は、①veTokenによるユーティリティトークンをユーザーがロックすることによるガバナンス権の獲得(エスクロー)する仕組みと②ユーティリティトークンを売らずにステークすることがユーザーの取りうる行動の中で最も良い、とするゲーム理論的枠組みである3,3トークノミクスを融合したような思想、を組み合わせているからである。

3.(3).a Velodromeにおけるトークンの分配

Velodromeからは2種類のトークンが発行されており、①ユーティリティトークンであるERC-20規格の$VELOと、②veトークン(NFT形式)のERC-721規格の$veVELO、である。$VELOの入手方法はVelodromeによる初期分配で得る(すでに2022年に実施済み)、もしくはLPとしてプロトコルに参加し、週次で分配されるエミッション報酬を受け取ることである。一方で、ガバナンストークンである$veVELOの入手方法は$VELOをロックすることで手に入れられる。$VELOのロックは常に可能であるため、$VELOが手元にあればユーザーはいつでも$veVELOを追加で取得できる。

また、$veVELOの分配量は$VELOトークンのロックアップ期間と比例する関係で決まる。$VELOのロックアップ期間と$veVELOの分配関係は、1年であれば25$veVELOの分配、4年であれば100$veVELOとなっており、1年と4年の間のロックアップ期間と$veVELOの分配量については線形関係が成り立つ。Velodrome v2からは常にトークンが4年間ロックアップされているように設定(「permalock」)することも可能である。

次に、Velodromeの$VELOの初期分配については表3.の通りになっている。

表3. Velodromeの$VELOトークンの初期配布アロケーション

表3.のとおり、$VELOへの配布はVelodromeに関連するコミュニティ(Velodromeと提携するプロトコルやチェーンのユーザーが主対象と考えられる)に対する割当てが最も多い。コミュニティへの$VELO分配が最も多い理由は、これまでVelodromeのインキュベーションへの貢献に加え、Velodromeの中長期的成長に貢献しそうなユーザーだとVelodromeが考えるからだ。コミュニティの中でも\$VELOの受け取れた量は異なっており、$WEVEホルダーが初期配布に占める割合の27%(108,000,000 $VELO)、OPユーザーは18OPユーザーは18%(72,000,000 \VELO)、クロスチェーンのDeFiユーザー(Curve.fi、Convex Finance、Platypus Finance、TreasureDAO、Redacted Cartelを指す)は15%(60,000,000 $VELO)である。

2番目に分配量の割当てが多かった属性はプロトコルであり、$veVELOによる分配を受ける。ここで指すプロトコルは2つの属性を指す。1つ目の属性はVelodromeが今後、自身とOptimismコミュニティの中長期的成長に貢献をしそうなプロトコルを指しており(72,000,000 $veVELOの配布)、TVL、トランザクションボリューム、ユニークウォレット数等を総合的に判断し、10~15個ほど選んでいる。2つ目の属性はプロトコルを通して配布されるGrant用の$veVELOトークンである(24,000,000 $veVELOの配布)。

その他にVelodromeから$VELOの初期分配を受け取る属性はVelodrome財団とOptimism財団、Genesis Liquidity Poolであり、$VELOと$veVELOで分配される。Velodrome財団は、初期に$VELOおよび$veVELOで総額4000万(10%)を割当てられ、$VELO-$USDCなどの主要なプロトコルペアへの投票やプロトコル開発の継続支援に利用された。初期割当ての$VELOすべてが$veVELOとしてベスティングされ、永久にVelodrome Protocolを通じて投票に使用される。また、運営費用や今後の開発を支援するため、初期配布の3%がVelodrome財団のアドレスに割当てられている。これらのトークン発行はVelodrome財団の$veVELO保有を増やすためにロックされたり、プロトコルを通じてインセンティブとして配布されたり、プロトコルの普及と採用を進める様々な活動に利用される。また、チーム報酬(Velodromeの運営の貢献者に対する報酬、と解釈できる)として15,520,816 $VELOが確保された。また、初期分配量の0.5%はVelodrome財団が保有している。保有目的は、Velodromeが初期分配から12ヶ月の間に報酬を財団メンバーに分配する間にVelodromeのガバナンスが希釈化することへの対策である。全てのチーム報酬は2023年6月までに配布が完了し、15,345,334.2 $VELOがチームメンバーから買い戻され、残りが$VELOとして配布された。Optimism財団へは謝礼として、Genesis Liquidity Poolには$VELOの流動性を確保するために配布が行われた。

初期配布とは別に、週次で$VELOトークンはエミッション報酬(エミッション報酬の分配は排出、する)が排出される。Velodrome v1では2022年6月4日から15,000,000 $VELOを起点として週次で1%減る割合が排出されていた。しかし、2023年6月22日にVelodrome v2がリリースとともに、排出量が15,000,000 $VELOに戻された。週次の$VELO排出はLPと既存の$veVELOホルダーに向けられているものであり、LPの受けとるトークンの割合は2つの要素で決まる。1つ目が週次での$veVELOホルダーによる最も流動性を集めるべきプール(いわば人気投票)の集めた票数の割合である。2つ目がLPのプール内における流動性の供給割合である。一方で、既存の$veVELOホルダーを対象にしたリベース報酬がある。リベース報酬の原資は週次の$VELO排出である。リベース報酬が導入された目的は、LPに全ての週次の$VELO排出を配布した場合、既存の$veVELOホルダーの投票力が著しく弱まり、既存のVelodromeユーザーが$VELOを長期的に保有・ロックする動機を殺ぐことを防ぐためである。週次のリベース報酬は、(veVELOの総供給量÷VELOの総供給量)3×0.5×週次の排出量(veVELOの総供給量÷VELOの総供給量)^3×0.5×週次の排出量、と計算される。

図4. \$VELOの週次の排出量と\$VELOの総供給量の関係

つまり、ロックされている$VELOの割合が高ければ高いほど$veVELOの投票力の希薄化が薄まる。

3.(3).b $veVELOホルダーの投票について

冒頭述べた通り、Velodromeはveトークノミクスに従うので、$veVELOホルダーによる「投票」はVelodromeにおいて重要な要素である。Curve.fiのようにveTokenの投票によって、プロトコルに蓄積されたスワップフィーの投票者への配分割合が決定される。
$veVELOホルダーはエポック毎(週次・毎週水曜日の深夜UTC時間)に最も$VELOの排出を受けるべきプールに関する投票が行われ、この人気投票に参加することでユーザーは$VELOを受け取れる。投票者が受け取ることのできる$VELOはプールが週次で集めたトレーディング手数料や、ブライブ(直訳すると贈賄)すなわちプールが得表を集めやすくするための追加報酬を原資としている。$veVELOホルダーが投票に参加する理由(あるプールの得表数を高くし、プールの流動性を高める)は次の3つが挙げられる。

  1. 1つ目は、投票者があるプールの流動性を増やすことでLPではなく、トレーダー(Liquidity Taker)の立場でプールにおけるトレーディングを行う際にプライスインパクトを減らしたいから
  2. 2つ目は、投票者がプールのLPであり、LP報酬以外にも得票によって報酬を増やしたいから
  3. 3つ目の理由は、投票者があるプールにトレーダーやLPとして参加していないが、得票による投票の分配報酬が欲しいから

上記のような動機が$veVELOホルダーにあると考えられるため、LPやトレーダーは自分が使うプールに票を集める。そのため、Velodromeには、ブライブという機能があり、ユーザー及び投票者はプールに票を集めるために投票者に投票後に分配される追加報酬を定められる。そのため、Velodromeに参加している投票者がLPであれば、投票の報酬は流動性プールの通貨ペアによって各ユーザーに配分される。Velodromeにおける実際の投票画面は下記の通りである。

図5. VelodromeにおけるveTokenの投票画面

投票画面の「POOLS」には投票対象のプールの基本情報(対象通貨ペア、スワップフィー、投票された$veVELOの価値、得票割合、TVL)が載っている。投票画面の「FEES」には累積されたスワップフィー、「INCENTIVES」にはブライブ額(得票を集めるために投票者が得られる追加手数料)、「TOTAL REWARDS」には「FEES」と「INCENTIVES」を合計した投票者に配られる全報酬額が載っている。プールへの投票者は自らが投じた割合に応じて「TOTAL REWARDS」の分配を木曜日の0時UTC(日本であれば木曜日の朝9時もしくは10時)に受け取ることができる。

3.(3).c ve(3, 3)トークノミクスとRelay

VelodromeのRelayはVelodrome v2から導入され、現状、$veVELO保有者にとって投票報酬を最大化する機能である。

Relayは次の2つの目的で導入された機能である:①投票者の$veVELOのNFTの最大化及び自動管理と②LPにとって報酬の最大化、である。VelodromeがRelayを自らのプロトコルに実装した背景には、DeFiユーザーのUXの改善、が挙げられる[11]。これまでAutomated VaultとDEXが一つのDAppsとして作られることはあまりなかった。Relayとして実装された「veVELO MAXI Relay」は、$veVELOの保有者が投票報酬を最大化し、週次で受け取るリベース報酬と投票報酬を自動的に$VELOに変換・ロックする機能である。Relayを利用者として使用する条件は、$veVELOを最大期間ロックすることである。現状、Relayで$veVELOの保有者向け機能は一つしかないが、Velodromeに認められたパートナープロトコルはRelayを作ることができる。VelodromeによるRelayのプロダクト案に、リベース報酬である$VELOは変えずに、投票報酬はプールと同じ通貨ペアなどによる配分を可能とするアイデア等があげられている。

4. 他プロトコルにおけるve(3, 3)との比較

本章ではVelodromeに以外にも、ve(3, 3)を導入しているプロトコルの代表的なBNBチェーン上のThena[12]、Fantomネットワーク上のEqualizer[13]、Arbitrumネットワーク上のChronos[14]等を紹介し、Velodromeと比較する。

4.(1) 各プロトコルが解決しようとしたこと

先述したVelodrome以外のプロトコルはve(3,3)に従い、vote escrow(ve)とOlympus DAOのゲーム理論(3,3)に基づくトークノミクスの上で成り立っている。各プロトコルともve(3,3)モデルを独自にカスタマイズしている。一例として、Thenaには最初から集中流動性が実装されており、Equalizerではリベース報酬がなくされ、ChronosはmaNFT導入を導入した。これらの比較を通じて、Velodromeの位置づけと他プロトコルとの違いを明確にすることができる。

4.(1).a Thenaの特徴

ThenaはBNBチェーン上で運営される2023年1月に誕生したプロトコルであり、ve(3, 3)トークノミクスを活かしながらLPが流動性供給する動機を高めることに焦点をあてたプロトコルである。Thenaは次のような課題を主に解決することを目的としている:

  1. LPのインセンティブの少なさ:
    (ア) (課題)多くのDeFiプロトコルでは、LPがプロトコルで流動性供給を行う動機は手数料の収受くらいであり、流動性が不安定になる可能性がある。また、流動性プールのスワップフィーを固定化してしまうと、LPは流動性を提供している通貨ペアのボラティリティの高さによってはリスクリワードに見合う報酬が得られない。
    (イ) (解決策)Thenaは、リファラルシステムを導入し、新規ユーザーが参入するたびに手数料を分配する仕組みを設けており、LPの数を増やす動機が存在する。また、Fusionの動的手数料構造により、市場のボラティリティに応じて手数料率を自動調整することで、流動性の確保と取引活動の促進を図っている。
  2. 集中流動性の管理の煩雑さ
    (ア) (課題)ThenaはLPの資金効率を他のDEXと比べて高くするために集中流動性モデルを実装しているが、LPにとって流動性がin-rangeであるための管理は煩雑である。LPは価格変動に応じてリバランスや、リバランス回数を減らすために高度な市場予測能力が求められる。
    (イ) (解決策)ThenaのFusion機能は、自動管理戦略を導入し、LPが価格範囲の自動調整やテンプレートベースの市場戦略を利用できるようにすることで、この複雑さを軽減している。
  3. 初期段階の資金調達とユーザーエンゲージメント
    (ア) (課題)初期段階での資金調達やユーザーエンゲージメントは、プロジェクトの成長にとって不可欠である。
    (イ) (解決策)Thenaは、NFTを用いた資金調達を行い、これらのNFTをステーキングすることでプロトコルの収益を分配する仕組みを構築している。この方法により、初期ユーザーのエンゲージメントを高め、プロトコルの成長を支援している。

4.(1).b そのため、Thenaは機能面においてVelodrome v2のSlipstreamを最初から実装しているようなプロトコルである。Velodromeと比較し、Thenaはプロトコルの設計やドキュメントを読む限り、LPへのインセンティブを重視している印象を受ける。Equalizerの特徴
次に、Fantom上で運営されているEqualizerの概要を説明する。EqualizerはVelodromeと同様に、既存のve(3, 3)トークノミクスやガバナンスの仕組みの改良に焦点をあて、2022年11月に誕生したプロトコルである。Equalizerは次のような課題を主に解決することを目的としている:

  1. ガバナンス権の集中化
    (ア) (課題)リベース報酬が存在すると、既にveトークンを保有している主体に対して過剰な報酬が与えられ、ガバナンス権が集中化する可能性がある。この場合、新規参加者がガバナンス権を獲得しづらくなり、プロトコルが新規ユーザーの参加の動機を少なくすることになる。
    (イ) (解決策)Equalizerはリベース報酬をなくすことで、新規ユーザーにもガバナンス権を獲得するための公平な競争機会を提供し、既存ユーザーへのガバナンス権が集中しづらなくなっている。
  2. ステーキング期間の制約と流動性の固定化
    (ア) (課題)VelodromeやCurveのようにガバナンス権の獲得のために長期間のステーキング(4年)を強いることは、ユーザーのユーティリティトークンに対する流動性リスクを高めてしまう。
    (イ) (解決策)Equalizerは、veトークンの最大ステーキング期間を26週間に制限することで、ユーザーに対してユーティリティトークンの流動性リスクを下げる。
  3. 手数料率の最適化
    (ア) (課題)スワップフィーの料率が低いとプロトコルの収益性が低下する一方で、スワップフィーの料率が高いとトレーダーの取引活動が抑制されてしまう。
    (イ) (解決策)Equalizerは、スワップフィーを固定介しているが、sAMMプールの手数料率を0.02%、vAMMプールの手数料率を0.2%と調整している。
  4. 初期ガバナンス権の分配
    (ア) (課題)初期のガバナンス権の分配を適切に行わないと、エコシステム全体の信頼性と活力が低下する可能性がある
    (イ) (解決策)Equalizer はVelodromeのようにプロトコル単位でのガバナンス権の付与は行っていない。初期のガバナンス権の分配には、独自で定めたSolidlyに理解がありそうな主体、という基準でガバナンス権を配布した。
    このように、Equalizerは機能面においてVelodromeやSolidlyからガバナンスの公平性及びユーザーのユーティリティトークンに対する流動性リスクを意識したプロトコルとなっている。Equalizerは既存のve(3, 3)トークノミクスに従うプロトコルは、一部のトークンホルダーにガバナンス権の集中化が起きていることを問題視した。その結果、Equalizerはリベース報酬をなくし、ガバナンストークンの付与をプロトコル単位では行わずに個人レベルで行い、またプロトコルに対してネイティブトークンの最大ステーキング期間を短くする方針を取っている。Velodromeと比較し、Equalizerは既存のve(3, 3)トークノミクスにおけるガバナンス権の集中化を防ぐことを意識している印象を受ける。

そのため、Thenaは機能面においてVelodrome v2のSlipstreamを最初から実装しているようなプロトコルである。Velodromeと比較し、Thenaはプロトコルの設計やドキュメントを読む限り、LPへのインセンティブを重視している印象を受ける。

4.(1).b Equalizerの特徴

  1. ガバナンス権の集中化
    (ア) (課題)リベース報酬が存在すると、既にveトークンを保有している主体に対して過剰な報酬が与えられ、ガバナンス権が集中化する可能性がある。この場合、新規参加者がガバナンス権を獲得しづらくなり、プロトコルが新規ユーザーの参加の動機を少なくすることになる。
    (イ) (解決策)Equalizerはリベース報酬をなくすことで、新規ユーザーにもガバナンス権を獲得するための公平な競争機会を提供し、既存ユーザーへのガバナンス権が集中しづらなくなっている。
  2. ステーキング期間の制約と流動性の固定化
    (ア) (課題)VelodromeやCurveのようにガバナンス権の獲得のために長期間のステーキング(4年)を強いることは、ユーザーのユーティリティトークンに対する流動性リスクを高めてしまう。
    (イ) (解決策)Equalizerは、veトークンの最大ステーキング期間を26週間に制限することで、ユーザーに対してユーティリティトークンの流動性リスクを下げる。
  3. 手数料率の最適化
    (ア) (課題)スワップフィーの料率が低いとプロトコルの収益性が低下する一方で、スワップフィーの料率が高いとトレーダーの取引活動が抑制されてしまう。
    (イ) (解決策)Equalizerは、スワップフィーを固定介しているが、sAMMプールの手数料率を0.02%、vAMMプールの手数料率を0.2%と調整している。
  4. 初期ガバナンス権の分配
    (ア) (課題)初期のガバナンス権の分配を適切に行わないと、エコシステム全体の信頼性と活力が低下する可能性がある
    (イ) (解決策)Equalizer はVelodromeのようにプロトコル単位でのガバナンス権の付与は行っていない。初期のガバナンス権の分配には、独自で定めたSolidlyに理解がありそうな主体、という基準でガバナンス権を配布した。

このように、Equalizerは機能面においてVelodromeやSolidlyからガバナンスの公平性及びユーザーのユーティリティトークンに対する流動性リスクを意識したプロトコルとなっている。Equalizerは既存のve(3, 3)トークノミクスに従うプロトコルは、一部のトークンホルダーにガバナンス権の集中化が起きていることを問題視した。その結果、Equalizerはリベース報酬をなくし、ガバナンストークンの付与をプロトコル単位では行わずに個人レベルで行い、またプロトコルに対してネイティブトークンの最大ステーキング期間を短くする方針を取っている。Velodromeと比較し、Equalizerは既存のve(3, 3)トークノミクスにおけるガバナンス権の集中化を防ぐことを意識している印象を受ける。

4.(1).c Chronosの特徴

最後にArbitrum上のChronosについて解説する。ChronosはEqualizerと異なり、LPの長期的な参加を促すような仕組みをmaturity adjusted-NFT(以下、maNFT)という形で導入している2023年4月に誕生したプロトコルだ。maNFTは、LPのステーキング期間が長いほど、LPが受け取るトークン報酬(ガバナンス権付トークン)が増加する仕組みを取り入れるためのNFTである。Chronosは次のような課題を解決するためのプロトコルである:

  1. 流動性の保持と効率化
    (ア) (課題)多くのDeFiプロトコルでは、LPが資金を長期間提供するインセンティブはトレーダーからのスワップフィーを受け取るくらいになっている。プロトコルに参加するLPが安定しない場合、とりわけ、流動性が短期間で引き上げられてしまう場合やJIT-Liquidity戦略がLPに運用されると市場の安定性が損なわれる。
    (イ) (解決策)ChronosはmaNFTを導入し、LPがスワップフィーを受け取るだけではなく、LPが流動性を供給した期間に応じて報酬が増える仕組み(「time premium」、と言われる)が実装された。maNFTの存在により、LPは長期間での流動性を供給する動機が高まり、プロトコルに提供される流動性を安定化させている。
  2. 初期資金調達とユーザーエンゲージメント
    (ア) (課題)新規プロジェクトは初期の資金調達や長期ユーザーの獲得に苦労することが多い。
    (イ) (解決策)ChronosはNFTを利用した資金調達を行い、ユーザーはNFTをステーキングすることでプロトコルの収益を分配する。veTokenのエアドロップを行うことで、初期段階でのユーザーエンゲージメントを高めている。また、新規ユーザー獲得のためにThenaのような紹介報酬が存在する。
  3. 手数料の柔軟性
    (ア) (課題)流動性プールのスワップフィー料率の固定化は、異なる市場条件に対応するのが難しい。市場のボラティリティに応じて手数料を調整する必要がある。
    (イ) (解決策)Chronosは、動的手数料構造を採用しており、市場のボラティリティに応じて手数料率を自動的に調整することで、トレーダーの取引活動を抑制することなく、LPにもリスクリワードに見合うフィーの提供を行っている。
  4. ガバナンスの透明性と公平性
    (ア) (課題)ガバナンス権がすでにガバナンス権が集中化する。
    (イ) (解決策)Chronosはリベース報酬をなくし、最大ステーキング期間を2年に設定することで、ガバナンスの公平性を確保している。
    このように、Chronosは機能面においてガバナンス権の公平性とプロトコルがLPから提供される流動性の安定化を意識している。そのため、リベース報酬をなくすことでガバナンス権を常に持つ者に対する権力の集中を排除し、LPの流動性が根付くようにmaNFTを導入した、と考えられる。Velodromeと比較し、Chronosのほうがプロトコルに提供される流動性の安定化を意識しているように感じる。

4.(2) 各プロトコルの定性面での比較

本節では、前節にて紹介した各プロトコルを比較する。前節ではVelodromeとの比較が中心となっていたが、本節では表4に則り、各プロトコルを並列にLPへのインセンティブ、週次エミッション報酬の調整方式、最大ステーキング期間、ガバナンス権の初期分配、リベース報酬の有無、などで比較する。各プロトコルを定性的に比較する前提として、トレーダーのユーザー体験は意識せず、LPは満足にスワップフィーを収受できていると仮定する。なぜなら、LPが流動性を提供してもプールに対してスワップするトレーダーがいなければLPに収益が入らず、流動性が枯渇することを想定しなければならず、各プロトコルの機能面の比較が難くなるからだ。

表4. 各プロトコルの定性的な比較

最初に、「LPへのインセンティブ」について比較する。プロトコルがLPからの長期コミットメントを獲得するためのインセンティブは、2つに大別できると考えられる。1つ目が、LPとして手数料収入を有利に進めるためのガバナンス権である。LPはガバナンス権を得ることで自分がステーキングをしているプールのエポック毎の投票で票数を増やし、プロトコル内で流動性の高い良いプールとして認識されることでトレーダーを呼びこめられる。また、各プロトコルに存在するプールの得票数を上げるためにブライブ報酬を設定することができる。各プロトコルともLPへのガバナンス権を与えているが、Chronosは他プロトコルに見られないLPの流動性の供給期間を加味した報酬設計となっている。2つ目が、プロトコルが収受したスワップフィーの分配である。プロトコルのスワップフィーの分配に関する比較を行う際は、プロトコル毎のスワップフィーの料率だけではなく、LPとveトークンの保有者とのスワップフィーの配分割合についても考慮すべきである。各プロトコルとも、LPへのスワップフィーの分配がガバナンス権を持つ者への分配割合よりも多く、VelodromeやEqualizerについては100%がLPに分配される。ThenaとChronosはスワップフィーのすべてがLPに分配されないが、LPの多くがガバナンス権を行使すると思われるので実質的に各プロトコルともスワップフィーをLPに多く還元している、と考えられる。そのため、「LPへのインセンティブ」面についてはChronosがLPに対してやや長期的なコミットを誘導するような設計をしているように感じる。

次に、週次の「エミッション報酬」と「リベース報酬」について比較する。各プロトコルとも週次エミッション報酬を逓減している理由は、トークンのインフレが生じうるためである。VelodromeとThenaは同じ逓減割合となっており、週次で1%のペースでエミッション報酬が減る。一方でEqualizerは1%を大きく下回るが、Chronosは1%を大きく上回る2.5%を設定している。Velodromeのように各プロトコルにおいてアップデート、もしくは独自のガバナンス投票によって料率が変化しうる点は注意が必要だ。そのため、週次のエミッション報酬量の逓減割合のみでプロトコルのユーティリティトークンのインフレ耐性を比較した場合、Chronosが最もインフレしづらい結果となっている。この点、他プロトコルの方がややエミッション報酬を長期的に欲しがるユーザー(ガバナンス権を持つユーザーと考えられる)を獲得しやすそうである。週次のエミッション報酬と同様に、多くのプロトコルでは週次のリベース報酬が発生する。週次のリベース報酬は、プロトコルに何かしらの形で関係のある存在の影響力が大きく変動しないように、分配されている。Velodrome、Thenaはガバナンス権のみを持つユーザーの長期コミットも重視しており、ガバナンス権を古くから持ってはいるものの、流動性の供給に積極的ではないユーザーに対してもリベース報酬を与えている。一方で、EqualizerやChronosはガバナンス権の集中化を防ぎ、新規ユーザーの獲得のためにプロトコルのリベース報酬をなくしたプロトコルも存在する。特にChronosはLPの参加インセンティブを増やすために、LPをしていないガバナンス権のみを持つユーザーが得る利得を減らしている。このように、プロトコルによるガバナンス権の保護を既存ユーザーもしくは新規ユーザーに対して厚くするのかで、リベース報酬の有無が左右されていそうだ。

次に、「最大ステーキング期間」について比較する。最大ステーキング期間によって、プロトコルがガバナンス権を持つユーザーに対して求めるコミットメントの熱量を測ることができる。Velodromeは4年と長く、ThenaとChronosは2年、Equalizerは26週間とかなり短い。各プロトコルともロックする期間によってガバナンス権の付与量が変わるので、強いガバナンスを持ちたいユーザーは長期的にトークンをロックする。プロトコルへのロック期間が長いほどユーザーはユーティリティトークンを売ることができないため、流動性リスクを負う。しかし、各プロトコルともトークンがロックされている平均期間は最大期間の半分を超えているので、流動性リスクを負ってでもガバナンスを獲得したいユーザーは多く存在すると考えられる。Velodromeのトークンの平均ロック期間が3.62年[16]、Thenaのトークンの平均ロック期間が1.76年[17]、Equalizerのトークンの平均ロック期間が24.7週間[18]、Chronosのトークンの平均ロック期間が1.36年である。

最後に、ガバナンス権の初期分配について比較する。Equalizerのみがガバナンス権の初期分配を他プロトコルに対して行っていない。一方で、Velodrome、Thena、Chronosはプロトコル単位で初期のveトークンの分配を行っている。そのため、Equalizerは他プロトコルと比較して、ガバナンス権を持つ人が分散化されやすそうだ。

このように、各プロトコルともve(3, 3)トークノミクスに従っている、と一言で表しても導入の仕方等がそれぞれ異なっている。現状、Solidlyの直接の後継者として存在するVelodromeのTVLが4者の中で最も高く、2024年5月現在でUSD 143.86 MMであり、ThenaのUSD 44.48 MM、EqualizerのUSD 20.01 MM、ChronosのUSD 404 Kと続く。各プロトコルともリリースされてから5年もたたない新しいプロトコルということもあり、リリース順にTVLの順位が決まっていそうでもある。しかし、各プロトコルのTVLの推移に注目した場合、Chronosのみがリリース以降、TVLが急落している。ChronosのTVLが低い理由は、ガバナンス権を得るためにはLPとしての参加が重要となるリスクが危惧され、結果的にTVLがリリース直後から落ちてしまっている可能性がある。一方で、他のプロトコルはEqualizerが2023年10月にOptimismから資金調達をしたことによる急上昇を除けば、基本的に似た挙動をしている。そのため、ve(3, 3)トークノミクス系のプロトコルとして各者は特徴を出しており、それぞれにコアユーザーがついているといえそうだ。

5. おわりに

本書はVelodromeとve(3, 3)のトークノミクスについて解説を行った。ve(3, 3)トークノミクスはCurve.fiが作ったveトークノミクスとOlympus DAOが作った3,3トークノミクスを融合し、できるだけプロトコルのユーティリティトークンに売り圧力がかからないように設計されたトークノミクスである。Velodromeの誕生以降、Thena、Equalizer、Chronosのように独自の工夫や設定を加え、新たに誕生したプロトコルもあるが、TVLの安定性等からVelodromeのve(3, 3)トークノミクス系のプロトコルの中では存在感がある。

以上

参考文献

[1]: Velodrome Finance. “WELCOME TO VELODROME”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/, (参照 2024-05-19)
[2]: Defi Llama. Optimism – DefiLlama. https://defillama.com/chain/Optimism?volume=true&tvl=true, (参照 2024-05-19)
[3]: Velodrome Finance. “velodrome”. Velodrome Finance. https://velodrome.finance/liquidity, (参照 2024-05-20)
[4]: @0xkhhmer. “Velodrome Protocol Metrics 🚴”. Dune. https://dune.com/0xkhmer/velodrome, (参照 2024-05-20)
[5]: Vesper Finance. “A Closer Look at ve(3,3) | by Vesper Finance | Vesper Finance | Medium”. Medium. https://medium.com/vesperfinance/a-closer-look-at-ve-3-3-522add01b4b5, (参照 2024-05-20)
[6]: Alex Xu. “Unpacking ve(3,3) DEX Innovations: An In-depth Analysis of Velodrome Finance, Thena, Equalizer and Chronos”. Mint Ventures. https://mintventures.fund/pdf/Unpacking-ve(3,3)-DEX-Innovations-An-In-depth-Analysis-of-Velodrome-Finance-Thena-Equalizer-and-Chronos, (参照 2024-05-12)
[7]: Daniel Phillips “What is Vote Escrow?|CoinMarketCap”. Crypto Basics What is Vote Escrow?. CoinMarketCap. https://coinmarketcap.com/academy/article/what-is-vote-escrow, (参照 2024-04-30)
[8]: Nat Eliason. “Field Guide to the Curve Wars: DeFi’s Fight for Liquidty”. Nat’s Crypto Newsletter. https://crypto.nateliason.com/p/curve-wars, (参照 2024-04-30)
[9]: @adityadotb, @upniveau. “What is OlympusDAO and (3,3)? - Treehouse Academy”. What Is OlympusDAO and (3,3)?. Treehouse Academy Guides. https://www.treehouse.finance/treehouse-academy/olympusdao-and-33, (参照 2024-05-05)
[10]: Maxine. “Why Olympus DAO Can’t Sustain its Growth | by Maxine | Coinmonks | Medium”. Medium. https://medium.com/coinmonks/why-olympus-dao-cant-sustain-its-growth-e96b1cd392c7, (参照 2024-05-05)
[11]: Velodrome(🚴,🚴). “Velodrome: Relay. Building on Velodrome | by Velodrome (🚴,🚴) | Velodrome (🚴,🚴) | Medium”. Velodrome: Relay. Medium. https://medium.com/@VelodromeFi/velodrome-relay-d7cf5ff191f1, (参照 2024-05-10)
[12]: THENA. “Home | THENA”. THENA. https://thena.fi/, (参照 2024-05-20)
[13]: Equalizer. “Equalizer”. Equalizer. https://equalizer.exchange/, (参照 2024-05-20)
[14]: Chronos. “Chronos – Time is a resource, chronos is the guardian”. Chronos. https://chronos.exchange/, (参照 2024-05-20)